【インタビュー】専門医に聞く 脳の性質を利用し、依存症を克服

【インタビュー】専門医に聞く 脳の性質を利用し、依存症を克服

アルコールをはじめとした、あらゆるものに「ハマる」、依存症。ニュースソルトでは以前、臨床精神医学の専門医である垣渕洋一医師に、「依存症ビジネス」(デイミアン・トンプソン著、中里京子訳(2014) ダイヤモンド社)の書評を寄稿いただいた。書評では、依存症のメカニズムについて、脳の仕組みだけでなく、依存症の対象を生み出し続けている経済社会の仕組みからも解説、依存症から自分を守ることの大切さに触れられた。しかし、いざ自分が何らかの依存症になってしまった場合、そこから脱却することはできるのだろうか? 今回、垣渕医師を訪ね、日々取り組んでいるアルコール依存症の治療について話を伺った。

記者:垣渕先生はアルコール依存症の専門医でいらっしゃいますが、患者さんの治療をどのように行っているのか聞かせてください。

垣渕先生(以下、敬称略):患者さんには3カ月間、当院に「教育入院」をしていただき、毎日午前と午後のプログラムを受講してもらっています。主な内容としては、アルコール依存症について正しく知ってもらい、グループワークで体験を共有し、個別のカウンセリングも実施します。2週間後に、自助会に参加するために外出します。同じ病気の先輩や仲間と体験談を語り合い、アルコール依存症を克服していくために支え合う関係性を作っていきます。1カ月後には、外泊して、飲酒しないでいられるかなどを確認し、退院後の治療計画を決めていきます。

記者:効果は出ていますか。

垣渕:だいたい90日くらいの間、飲酒しない習慣を繰り返すと、脳が学習して、飲酒していた習慣から抜け出せるという変化が期待できます。とはいえ、再発も多く、入院者の2割くらいの方は再入院の方です。

記者:なぜでしょうか。

垣渕:飲酒習慣が、コンパや接待といった社交的な飲酒をきっかけに始まる人もいますが、ストレスが強い、孤独感や疎外感、さみしさ、自己否定感で満ちた心に対する自己治療としてアルコールを使っているうちに依存症になる方が多いです。もともとの心の状態を変えるのが容易ではないからです。そのため、退院して元の環境に戻ってしまうと、再発しやすいのです。また、人間の脳の性質として、常に「何かにハマりたい」という欲望があります。自分で自分の脳を意識して治めていかないと、ハマる対象への雑念がさまざまに渦巻き、引き込まれていきます。

記者:それなら、ハマる対象をアルコールからより健康的なものに代替できれば、克服できる可能性が高まるのでしょうか。

垣渕:そうですね。手っ取り早いのは、甘いもの、コーヒー、コーラなどを飲むことです。これらは、マイルド・ドラッグといって、アルコールほどではないのですが、脳の報酬系での作用があり、置き換えることができます。当院の患者さんでも摂取している人が多くいらっしゃいます。

より根本的な治療方法の一つとして、自助会に参加してもらい、「断酒したいけれど、失敗の連続」といったありのままの自分を受け入れてもらえる体験をしてもらっています。自助会には、日本で生まれた断酒会の他、アルコホリクス・アノニマス(AA)という米国発祥の組織があります。1930年代、クリスチャンの人たちが祈りを通して、さまざまな霊的体験をし、信仰を持つことで、根本の問題が時間の経過と共に解決され、アルコール依存を克服できたというエピソードを起点にできました。その後、クリスチャンでない人も利用できるように整えられ、1970年代に日本に入ってきました。伝えたのはミニー神父といって日本に宣教に来てアルコール依存症になった方です。米国で回復した後、再び日本に来て、AAやAAのプログラムを使った治療施設の創設に尽力されました。

記者:信仰ですか。つまりハマる対象を神に代替した、というわけですね。(笑)

垣渕:米国はキリスト教の国なので、信頼できる対象を人から神に転換しやすいのかもしれませんね。フォード元大統領夫人のベティ・フォードさんも、ファーストレディーだった時にアルコール依存症になり、カリフォルニア州の海軍病院で治療を受けて回復しました。その後、AAのプログラムを利用した治療施設を創設しています。当時は皆無だった、女性患者も治療を受けられる施設でした。

記者:アルコールに限らず、私たち人間を取り巻く環境には常に、知らず知らずのうちにハマってしまう対象が無数にありますよね。スマートフォンやインターネット、ゲーム、テレビ、買い物、ギャンブル、借金、仕事、また深刻な薬物など。これらのものから身を守るために、普段からできることがあれば教えてください。

垣渕:私たちの脳は、想像以上に無防備な状態でそういったものにさらされています。だから、まずはそのことを認識すること。依存症になるリスクはどんな人にもあります。私たちの一番原始的な脳の働き、つまり「欲しい」という衝動を操作しようとする、人や社会の裏側にあるしくみや働きを見抜いて、拒否できるように訓練することが必要不可欠です。そのためには自分自身の「考え」を治めることが大切ですね。つまり、不健康な考えや悪い考えを脳でスタートさせないことです。脳はとても単純なので、自分が自分に「おまえ、何をやっているんだ」と叱るだけでも効果があるそうですよ。(笑)

記者:本当ですか。早速試してみます。今日はありがとうございました。

垣渕洋一医師
【プロフィール】
専門領域:臨床精神医学(特に依存症、気分障害)、産業精神保健。
資格:医学博士 日本精神神経学会認定専門医、精神保健指定医
職位:社団法人翠会(みどりかい)成増厚生病院 診療部長
東京アルコール医療総合センター センター長
公式ホームページ「精神科医・垣渕洋一による依存症の話」

アルコール関連問題啓発週間ポスター

画像提供:アルコール健康障害対策基本法推進ネットワーク
 

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岩松 明日香

ツアーガイドの傍ら、日本の名勝地を訪れ取材しています。動物、子供、乗り物が好き。テーマは「アジアの平和と和睦」愛のある記事を目指しています。 好きなこと:おしゃれなカフェで記事を書くこと

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