【特集企画~書評(健康・医療編)】 『依存症ビジネス――「廃人」製造社会の真実』~あらゆるモノにハマる現代人(2)

前回は、『依存症ビジネス――「廃人」製造社会の真実』(デイミアン・トンプソン著)を取り上げ、いかに世界規模で人々の脳に「アディクション(嗜好、依存症)」が浸透しているかを紹介した。今回は、自らをアディクションから守ることについて考えてみたい。

「クロス・アディクション(複数の対象への依存症)」の種類は多岐にわたるので、本稿では、代表的なものであるフード・アディクションを紹介する。筆者が「なるほど!」と思ったのが、フード・デザイナーという専門職があることである。その企業が作る食品や(レストランの場合は)サービスに、ハマらせるかを研究し、戦略を立て、遂行しているということだ。

その一人であるザンシ・クレイ氏は同書の中で、若い女性を中心に人気のカップケーキ販売戦略を例に以下のように語っている。
『カップケーキは、究極の見かけ倒しの食べ物よ。めかしこんで、10代の女の子のアイドルみたいに形づくられている。まさに少女たちの夢を食べ物で体現したものだわ。
憧れをかきたてることにおいて、セレブと張り合えるライバルがショッピングしかないようなゴシップ誌の世界では、カップケーキは、素朴な“ヴィクトリア・スポンジケーキ”と違って、消費者へのアピール性が高い。摂食障害が、自分をコントロールするための必死の手段なのだとすれば、こうした人工的で完璧すぎるものを食べるのは、とりわけ満足が行く行為でしょう。何より、大量の糖分が渇望を癒し、低血糖症が引き起こされて、交感神経の活動を高めてくれる。スムーズでふわふわしていて脂っこい質感は、アイスクリームと同じように、吐くにはぴったりでしょうしね。
それに、これは私の偏見かもしれないけれど、カップケーキの究極的な虚しさ――栄養なしの高カロリー食品であることや、絶対に期待した味がしないことなど――は、過食症に悩む女性や男性の象徴になっているんだと思うの』

ここまで悟っているフード・デザイナーの立てた戦略の前では、無防備な人達の脳は、なすすべがないと感じる。

同書には他にも、マクドナルド、スターバックス、アップルなど一流企業の戦略が取り上げられている。普段の生活の中でよく接する、これら一流企業が提供している製品やサービスから、アディクションが生み出されるとは、なかなか思い至らないだろう。スポンサーとして大きな影響力があるため、これらの企業にとって不利な情報をマスメディアは流しにくいためでもある。

同書から読み取れる、アディクションから脳を守るために必要なことは、以下の3つだ。

(1)真実を知るための情報源を持つ。
(2)短期的な心地よさや欲望より、長期的に有益かどうかを、常に考える。
(3)「有益なこと」と「有害なこと」を見抜いて、有益なことは行い、有害なことは行わないことを続ける。

自分や家族をアディクションから守りたいと考えるすべての人に読んでいただきたい本である。

(写真はイメージ)

参考記事
【特集企画~書評(健康・医療編)】 『依存症ビジネス――「廃人」製造社会の真実』~あらゆるモノにハマる現代人(2)(2016/03/05)
 

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垣渕 洋一

専門:臨床精神医学(特に依存症、気分障害)、産業精神保健。資格:医学博士 日本精神神経学会認定専門医

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